1990 年 56 巻 2 号 p. 177-184
ダイズモザイクウイルス(SMV)のB系統(SMV-B)とD系統(SMV-D)の種子伝染性の差異の原因を明らかにするために両系統のダイズ植物体内における移行,増殖,不活化の様式を検討した。ダイズ品種ヒュウガにおのおののウイルス系統を接種し,葉ならびに種子中のウイルス量を生物定量法およびELISAによって経時的に調べた。第3本葉期の第3本葉に接種した場合,接種後10日目には接種葉から上方に位置するどの葉位葉内においても,SMV-DのほうがSMV-Bよりも多量に増殖していた。その後植物体の加齢に伴って両系統とも減少したが,その失活速度はSMV-DのほうがSMV-Bよりも速やかであった。接種後50日目に両系統は接種葉より下方に位置する葉からもわずかに検出されたが,これらの葉においてもSMV-Dの減少はSMV-Bより顕著であった。さらに両系統を生育段階の異なるダイズの各葉位葉に接種した結果,極端に老化した葉に接種した場合や開花期以降の植物の葉に接種した場合を除き,両系統とも容易に全節の種子へ移行した。結局,両系統の移行に大差はないものの,移行先の各器官(葉ならびに種子)内では,SMV-Dの失活速度がSMV-Bのそれを上回った。