1992 年 58 巻 1 号 p. 16-22
自然土壌で栽培したトマトの根から分離したFusarium属の糸状菌について,萎ちょう病に対する発病抑制作用を浸根処理法を用いて検定した。最も高い抑制効果を示した菌株はF. oxysporum MT0062で,トマトに対して病原性はもたないものの,根から侵入し胚軸部の組織から1.5ヵ月以上に渡って再分離され,本菌はトマトに対する親和性が高いことが示された。F. oxysporum MT0062はトマト萎ちょう病のほか,半身萎ちょう病,ナス半枯病に対する発病抑制効果が認められ,本作用は非特異的であった。F. oxysporum MT0062は抑制効果が認められたナス科作物に限って胚軸部組織から高頻度で再分離されたことから,発病抑制作用と親和性との相関関係が示唆された。一方,各病原菌に対してF. oxysporum MT0062は抗生作用を示さず,また,本菌を根から前処理したトマト苗の茎葉に疫病菌を噴霧接種したところ,疫病の発病が無処理と比較して軽減されたが,疫病菌の接種部位からF. oxysporum MT0062は分離されず胚軸部に留まっていた。これらの結果より,F. oxysporum MT0062は,親和性をもつナス科作物の根から侵入し胚軸部組織で生育することによって,植物体の抵抗性が全身的に誘導され非特異的な発病抑制作用が生じたものと推察された。