抄録
根頭がんしゅ病菌(Agrobacterium tumefaciensおよびA. rubi)のTiプラスミドに基づく系統分化を明らかにするために,来歴の異なる21菌株をブドウ,モモ,ナシ,トマト,ヒマワリ,ベンケイソウ,タバコの茎,ならびにベンケイソウの葉に接種した。形成されたがんしゅの長径を変数として主成分分析を行ったところ,これらは7つのグループ(グループ1∼7)に大きく類別できた。グループ1(オパインとしてオクトピンとククモピンを誘導),2(ビトピン誘導)および3(オパイン未検出)にはbiovar 3のみが含まれており,いずれもブドウに対して強い病原性を示したが,その他の植物ではがんしゅの大きさに差異が認められた。グループ4(オクトピン,アグロピンおよびマンノピン誘導)はbiovar 1のみを含んでいるが,グループ5(ノパリン誘導)にはbiovar 1, 2, A. rubiおよび所属不明菌が混在しており,分類学的にはヘテロな集団であった。これら2つのグループはブドウには弱病原性であるものの,それ以外の植物には強い病原性を示した。分類学的な所属が不明な菌株から構成されているグループ6(オパイン未検出)およびグループ7(ノパリン誘導)は全般的に病原性が弱かった。形成されたがんしゅの形状,がんしゅ中に誘導されるオパインの種類およびアグロシン84感受性についても,グループ5以外ではグループごとに均一なパターンが得られた。グループ5はアグロシン84感受性が陽性のグループ5-A (biovar 1, 2および所属不明菌)と陰性の5-B (A. rubi)に細分された。グループ5-A以外の供試菌株はすべてアグロシン84に対して抵抗性であった。グループ2に属する日本産の6菌株のbiovar 3は,いずれもオパインとしてビトピンを誘導することから,わが国にもビトピン型が分布していることが明らかとなった。