抄録
融雪直後の植物より低温性の糸状菌を採集し,それらの雪腐黒色小粒菌核病菌(Typhula ishikariensis)に対する拮抗性を,オーチャードグラス幼苗を用いて評価した。イネ科植物残渣由来のT. phacorrhizaと考えられる菌株が,本病の拮抗菌として有効で,これらの菌株の拮抗性には変異がみられた。すなわち,本病菌生物型Bに拮抗性を示す菌株は積雪地帯に普遍的に分布していたが,ペレニアルライグラスの主要な雪腐病菌である生物型Aに有効な菌株は,北海道北部天北地方に局在していた。このことは,天北地方では生物防除が自然におこり,多雪にもかかわらず,本地方で雪腐病に弱いペレニアルライグラスが多く作付けされている理由の一つと考えられた。カエデの枯葉やイナワラは拮抗作用を促進し,アルファルファやオーチャードグラスの乾燥粉末は拮抗作用を低下させた。これらの拮抗菌を用いて,生物型Aの自然発生するペレニアルライグラス圃場で生物防除試験を行ったところ,発病のひどい条件下(3冬目,秋期刈取処理をした区)では26.5%の増収をみた。また,根雪前に導入した拮抗菌は,翌春には植物体上に菌核を多数形成しており,本拮抗菌においては導入・定着が容易であることがわかった。