抄録
北海道,北見地方にはインゲンマメ根腐病(病原菌Fusarium solani f. sp. phaseoli)の発病抑止土壌(北見土壌)が存在する。この土壌では同菌大型分生子の発芽が強く阻害され,これには土壌の化学的要因と微生物が関与することが示唆されていた(古屋・宇井,1981)。このうち化学的要因は土壌pHが5.5前後より高くなると失活する(古屋,1982)ことから,酸性土壌で毒性を示す可能性があるアルミニウムやマンガン,さらに低pHそのものが発芽阻害に関与する可能性を検討した。北見土壌の交換性アルミニウム量は,in vitroで大型分生子の発芽が阻止されるアルミニウム濃度の100倍以上であった。発病抑止土壌が分布する地域の15地点から採取した土壌の交換性アルミニウム量と大型分生子発芽率との間には明快な負の関係が認められた。また炭酸カルシウムを加えることによって発芽阻害が見られなくなった北見土壌では交換性アルミニウム量も減少しており,大型分生子発芽が強く阻害された土壌の交換性アルミニウム量はすべて2.0meq/100g乾土以上であった。本菌大型分生子はpH 3.8の水溶液中で高率に発芽した。北見土壌の大型分生子発芽阻害はpH 5.4付近でもみられ,土壌マンガンのうち微生物に毒性を示す可能性がある交換性および易還元性マンガンの量は,発芽阻害のみられない土壌に比べて北見土壌で必ずしも高くなかった。これらのことから,北見土壌の大型分生子発芽阻害において土壌アルミニウムが重要な役割を果たしていることが強く示唆された。