1996 年 62 巻 4 号 p. 379-385
1980年代に日本において,果実面に凹凸を呈するニホンナシ品種新高と吉野が見出された。発症樹から検出されたウイロイドをニホンナシ品種新高と吉野に戻し接種したところ,同一症状が再現された。本ウイロイドの諸性質は,リンゴさび果ウイロイド(ASSVd)のそれと極めて類似していたことから,リンゴ由来のASSVdをニホンナシの両品種に接種したところ,同一症状が発現した。さらに,既知のASSVdの塩基配列から2組のプライマーを合成し,純化ウイロイド試料を用いたRT-PCRを行ったところ,ASSVdとして想定されるバンドが検出された。また,生育枝と休眠枝は,簡易な核酸抽出法を用いたRT-PCRによる検定に適していた。RT-PCRで増幅されるds-cDNAをpCRTM IIにクローニングして,本ウイロイドの塩基配列を解析したところ,橋本らが決定したASSVdの塩基配列と比較して,塩基の欠損,付加,置換が各1か所ずつ認められたのみであった。以上のことからニホンナシの本症状は,ASSVdを病原とする病害であることが明らかとなり,ニホンナシ奇形果病と命名することを提案した。また,ニホンナシの場合,圃場での感染樹から健全樹への刃物による本ウイロイドの伝搬を示唆する結果は得られなかった。