日本植物病理学会報
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日本産カンキツトリステザウイルス分離株の遺伝子解析
加納 健日山 東子夏秋 知英今西 典子奥田 誠一家城 洋之
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1998 年 64 巻 4 号 p. 270-275

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抄録

わが国においてはカンキツトリステザウイルス(CTV)の病原性の異なる分離株が多数報告されている。これらの分離株における遺伝子レベルでの差異を明らかにするために,CTVゲノムの一部をRT-PCRにより増幅し解析を行った。PCR産物は27Kタンパク質遺伝子の3'端領域から外被タンパク質遺伝子の大部分の領域を含む約640塩基で,両遺伝子間にあるタンパク質をコードしない部分(GAP領域)も含んだ。12分離株のPCR産物から得た13の塩基配列を比較し,それらを3群に大別できた。I群には強毒株(1215A, 1513A, 1595A-1, HS34, KS3A2), II群には弱毒株(BOUQA, M12A, M15A, M27A), III群には強毒株(S5A2, S5agA)と弱毒株(M23A, 1595A-2)が含まれた。日本産強毒株のGAP領域には1ないし2塩基の欠失が認められ,このような特徴的な遺伝子構造は,遺伝子診断技術の確立に役立つものと考えられた。外被タンパク質遺伝子の124番目のアミノ酸残基は,保存性が高く系統特異的であり,強毒株と弱毒株の識別に役立つと報告されている。しかし,本研究に供した日本産CTV弱毒株のうちM15AとM23Aは他の強毒株と同じアミノ酸残基を有していた。この結果は,わが国に分布するCTV分離株は,他のカンキツ生産地帯に見いだされるCTVに比べ,遺伝子レベルにおいて変異に富むことを示唆している。

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