日本植物病理学会報
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抵抗性イネ品種の穂から再分離したいもち病菌の病原性変異に及ぼす通過イネの真性抵抗性遺伝子の影響
生井 恒雄大場 淳司菅原 秀治富樫 二郎
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1999 年 65 巻 1 号 p. 67-75

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抄録

本実験はイネの穂を通過する際に発生するイネいもち病菌の変異菌の出現率,レース数に及ぼす抵抗性品種の関係と,病原性変異の方向に及ぼす通過する品種のもつ真性抵抗性遺伝子の影響を検討する目的で行った。すなわち,ササニシキのいもち病真性抵抗性同質遺伝子5品種,2系統の穂に野外に分布する非親和性レースの分離菌株を注射接種して,その罹病穂からの再分離株の病原性を調べた。その結果,抵抗性品種・系統の罹病穂からの分離株は検出レース数,病原性変異菌株の出現率,侵害できる遺伝子数についても罹病性品種の穂を通過させた場合に比べて明らかに高くなり,変異菌の発生に抵抗性品種の穂が重要な意味をもつことが明らかとなった。出現した変異株の病原性と通過品種の真性抵抗性遺伝子の関係をみると,通過した品種を侵害できる新レースが出現するものもみられたが,通過した品種に含まれない他の真性抵抗性遺伝子をもつ品種を侵害できるものも同時に得られることが一般的であった。このことから,イネ穂上でみられるいもち病菌変異株の変異の方向は真性抵抗性遺伝子の種類には影響されず,無方向に起ると結論した。供試した5品種・2系統の穂を通過させた場合に出現した変異株で常に多数出現したのはPi-ta, Pi-i, Pi-zをもつ判別品種を侵害できる菌株で,そのほかPi-k, Pi-bをもつ品種を侵害できる変異菌も少数ではあるが常時出現した。これに対してPi-ta2, Pi-ztPi-kmをもつ品種を侵害できる変異株はまれに出現したかあるいは出現しなかった。これらのことから,イネいもち病菌の非病原性遺伝子にはきわめて不安定なもの,中程度不安定なもの,安定なものの3種類がある可能性が示唆された。

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