抄録
イチゴ黒斑病菌が生産するAF毒素Iをイチゴ感受性細胞に処理すると,原形質連絡糸部位に原形質膜変性が生じ,この部位の細胞外に多糖類が多量に集積した。この多糖類の分泌に関連する細胞反応について,生体組織の細胞オルガネラの機能解析に効果を発揮することが知られている電顕計測学法を用いて調査した。計測の結果,葉緑体,マイクロボディー,核,液胞の細胞の容積については毒素処理区と水対照区の間で有意差はないことがわかった。それに反して,クリステ,ゴルジ野,核小体,粗面小胞体の容積とゴルジ小胞数は,毒素処理3時間以内に対照区よりも有意に増加した。しかし,毒素処理区のこれらオルガネラ容積やゴルジ小胞数は,毒素処理6時間と10時間後には対照区よりも有意に減少した。この結果は,毒素処理により感受性細胞がえ死する前に,多糖類を含む物質の生合成と分泌機能が一時的に活性化したことを示す。