日本植物病理学会報
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ベツコウタケの樹病學的研究
逸見 武雄赤井 重恭
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1939 年 9 巻 4 号 p. 199-210_1

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抄録

1. ベツコウタケは本邦内に廣く分布し,尚生活力旺盛なる濶葉樹の材幹腐朽を基因す。その寄主多種なるも,櫻及びニセアカシヤの被害最も大なるが如し。
2. べツコウタケは永らく學名をPolyporus semilaccatus BERK.と稱せられたれども,最近今關(7)はPolyporus rhodophaeus LÉVを之に當て,前者をその異名と見做せり。若しTROTTER (17),今關等のなせる如く,兩菌を同一種と見做し得るならば,先命權に基き本菌學名には後者を採用す可きものなり。
3. 本論文に於ては最初筆者等の調査せる本菌の形態を記載し,次でその分布を檢討したるが,本邦内地に於ては本州各地,四國竝に九州に産するのみならず,その分布は北海道より臺灣竝に朝鮮に及び,海外に於ては比律賓,瓜哇, Porto Rico, North Borneo, Ceylon及び印度等に知らるるが如し。
4. 本菌の菌絲は大體11℃前後より40℃前後迄發育し得るも,特に16℃と36℃との間に於て良好,發育に對する最適温度は31°-32℃に存するものの如し。
5. ニセアカシヤ樹幹の腐朽状態を研究したるが,通常子實體が根際部に發育する點竝に該部が腐朽の最も進みし點より考察するに,本菌は斯の如き場所の傷痍より侵入し,幹及び根の材質部腐朽を基因するものと見做し得。
6.材質腐朽は通常周圍の邊材部に發し,次第に心材の中心に向つて進行するも,純然たるperipheral rotにあらざるが如し。時にはmixed rotを基因するものの如く,幹の横斷面に於て周邊部及び中心部に最も腐朽の進展せし部分ありて,中間に尚健全なる組織殘存するを認めたり。
7.腐朽材は全體一樣に白變するものにして,材は稍々柔軟となり,遂には脆くして輕きものに變ず。
8.腐朽材の觀察によるも, BAVENDAMM氏反應によるも,本菌はリグニン溶解菌Korrosionspilzeに屬すること明かなり。

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