心身医学
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男子更年期障害への対応を考える
熊本 悦明
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2004 年 44 巻 12 号 p. 889-

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抄録

男子更年期障害が, 最近ようやく正式に医学研究の"爼上の鯉"となり, 多くの医学者や臨床医により検討されるようになってきた. 生殖年代の心身機能の活性を支えてきた男性ホルモンが, 生殖を終えるとともに減退しはじめ, 種々な体調不全を起こしてくるのが"男性更年期". 女性側は閉経という, 目にみえる生理的変化とともに性ホルモン減退があるので, 比較的更年期問題点が理解されやすい. しかし男性側はそのような, 生殖を終える明確な区切り的生理現象がなく, 男性ホルモンは漸減的な生理的衰退しかないとされてきた. しかし最近のandrology発展により, その減退は必ずしも漸減のみでないことが明らかになった. 現在, andrologyの立場からは, 生殖を終えた以後の年代を, 男性更年期も含めて, "late-onset hypogonadism"と理解しようとする流れになりつつある. 性ホルモンの顕著な減退による生理的機能変化をbiochemical disorder(脳中枢の性ホルモン依存性蛋白受容体の機能低下)として, 加齢によつて起きる各種の身体上器質的変化とは別にとらえようとしている. ただ臨床的には, 更年期問題にはそれに加えて, もう1つ別な大きな生理的問題点がからんでいる. 性ホルモン依存性蛋白受容体の変調以外に, 心身を動かす"脳中枢の神経伝達系の変調"が, この更年期に起こりやすい. この年代になると, 医学的解明はいまだ十分になされてはいないが, "大脳辺縁系や視床下部"が心理的ストレスに対する脆弱性がかなり高まり, 生活上のストレスで変調を起こしやすくなってくる. しかも男性の更年期年代は, 生活環境上, まさに強いストレスを受ける状況にある. その強いストレスの影響をまと もに受けて, 大脳辺緑系や視床下部が変調をきたし, 種々な心身症的症状が惹起されることが多い. そのうえ, 前述の男性ホルモン低下が, 蛋白受容体の変調のみでなく, 同時にまた脳中枢神経伝達系の変調をも起こす. 両因子が折り重なって諸々の心身症的不定愁訴を発症させることになってくる. このように, 更年期の医学的間題はandrologyの立場からのlate-onset hypogonadismによる性ホルモン依存性蛋白受容体の変調だけでは説明できない内容を含んでいる. 上述の2つの脳中枢の変調要因が渾然一体となって, 更年期障害とされる(1)精神神経症状, (2)自律神経失調症状, (3)性機能低下を発症させている. その両要因の個々人における微妙な複合状態が, 個々の症例それぞれの症状内容を複雑に変化させているのである. そのため治療学的諸検査も, 個々の症例における発現要因を, 臨床上明確に分析することは容易でない. 治療学的にいうならばandrogen療法とantidepressant療法のどちらにより比重を置くのかは, 担当医師の医学的立場によりかなり差が出てきてしまう. そのため, 臨床の場でそれぞれの症例の治療法の検討を, andrologistと心身医療医の共同で, 具体的に両面からの検討を行い, その治療効果の分析を積み重ねていくことが強く求められている. ``Andrology側"にいる筆者の立場からの現在の要望としては, ぜひ"心身医療側"研究者とのより密接な提携による共同研究により, 治療にしっかり結びつくような, 症例の発症要因の統一した分析法を, 1日も早く検討して, 更年期障害の共通の治療guidelineを創り上げねばならないと切に願っている.

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© 2004 一般社団法人 日本心身医学会
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