心的外傷後ストレス障害(PTSD)の臨床研究は,affective neuroscienceにおけるストレス脆弱性の脳基盤の研究と相互作用して進展している.一連の神経画像研究から,恐怖条件づけの形成・消去に重要な内側前頭皮質(前部帯状回を含む)と辺縁系(扁桃体・海馬)の相互連絡がPTSDの脳病態の中心として浮き彫りにされた.PTSDにおける脳障害がPTSDに至る脆弱性因子か,心的外傷に曝露された後の獲得性因子かについては,双生児を対象としたMRI研究から,海馬体積減少が脆弱性因子であることが示唆されている.近年,ストレス脆弱性に関わる内側前頭皮質・辺縁系の神経発達に,遺伝と養育環境の相互作用が関わっていることが明らかにされつつある.PTSDを含む不安・うつ病スペクトラム障害における遺伝的素因と環境要因の時期依存性や質的特徴を選り分けていくことが,ストレス脆弱性の脳基盤の統合的解明に資するであろう.神経画像は,PTSDやストレス脆弱性の脳病態解明のみならず,診断や治療効果判定などの臨床応用可能性にも期待がもたれる.