2015 年 55 巻 1 号 p. 26-33
慢性疼痛の心身医療においては,身体的痛みに合併した患者の独特な生きる痛みにおける苦悩を,患者と治療者の双方向性の対話でnarrativeとして浮き彫りにしていくことが重要である.本稿では,診療でよく耳にする患者のフレーズが,現代医学のどのようなevidenceと関連していると考えられるのか解説した.また,narrativeの中で,現代日本人の抱えやすい苦しみに治療者が気づくために,慢性疼痛医療の中で多くみられる日本人に典型的な生き方のプロトタイプを示した.このように,慢性疼痛医療におけるnarrativeを医療者という人間を通してevidenceに変換していくという作業を行い,苦しみを減じて生活を楽しめるように援助するサイエンスを発展させていくことが重要である.