2017 年 57 巻 10 号 p. 1040-1045
同じ医学的事実を共有していたとしても, それをとらえる価値観が異なれば, 医療従事者や患者・家族の間で治療上の判断が分かれる事態が起こりうる. 臨床における倫理的問題とは, こうした価値観の対立から生じる治療決定上の問題のことである. 倫理的問題を取り扱う際には, 事実と価値判断とを明確に区別したうえで, (自分自身も含む) 当事者間での価値観の違いを評価することが重要である. 当事者間で治療方針をめぐって合意に至れない場合には, 倫理コンサルテーションと呼ばれるサービスを利用することも選択肢の1つであろう. ただその前に, 患者にとっての最善の利益をともに模索することは可能であり, そのことは, 何も生命倫理・医療倫理の専門家でなければ取り組めないものではない. 心身医学領域に親和性の高いコミュニケーション技法は, 最終判断に必要な情報を収集して整理し, 当事者間で検討するうえでも有効であろう.