2019 年 59 巻 4 号 p. 321-327
わが国は地球規模で進行する高齢化の流れの中でその最前線に立ち, 国内において高齢者対策が急務であるだけでなく, その過程で蓄積される知見を世界に提示・共有し, 対策を協働することを求められているのかもしれない. われわれはブータンにおいて村人や保健省とともに地域密着型の高齢者ケア計画を推進してきた. ブータンには, 人間を含めたすべての生き物との調和が長寿の源であるという考えがある. ブータンにおいて, わが国では治療可能な疾患に対し十分な医療を提供できていない現状がある一方で, 村のあちらこちらで高齢者が, 豊かな自然の中で, 家族, 親戚, 隣人たちによる手厚いケアを受けていた. ブータンの高齢者の現状を把握することはわれわれが発展とともに得たもの, そして失ったものを知るうえで重要である. 両国が課題と可能性を共有し, 交響しながらその地に即した高齢者ケアのあり方を追求していくことは意義があるのではないだろうか.