2023 年 63 巻 2 号 p. 120-123
私が心療内科を志した理由は「心身医学は未開の荒野だから」というものであった.心療内科は格好の新しい世界の入り口に思われた.卒業後すぐに心療内科に入り,初年研修では深町建先生のもとで摂食障害の治療の指導を受けた.九州大学心療内科研修では,心身症の治療に苦労した.長門記念病院では塵肺症の心身症治療を経験した.大学院では神経免疫調節系の研究を行い,ストレス負荷による脳内サイトカイン発現定量のために,高感度検出系の開発を行った.その後米国国立衛生研究所(NIH)へ留学,分子生物学的手法による脳内神経伝達物質の研究を行った.帰国後,バイオフィードバックによるジストニアの治療を行いながら,九州大学の病棟や医局の運営を行い,心療内科の現実面を経験した.福岡歯科大学では,地域医療における心身医学を実践しつつ,歯科と共同して口腔心身症の治療を行っている.30余年を経て,当初の志の行方について振り返ってみる.