論文ID: 1508oa
日本語表記の異なる文章に対する言語性ワーキングメモリについて近赤外線分光法(NIRS) を用いて検討した。12名の健常成人を対象にCRT画面上に連続呈示される3つの文章を音読する「Reading課題」,さらに文章内に引かれた下線部の標的語も記憶する「Reading Span Test (RST) 課題」を実施した。条件は表記法の違いで4つに分けられた。すなわち,(1) 仮名のみで表記された空白部のある文章(Kana-S),(2) 漢字仮名交じりで表記された空白部のある文章(Kanji-S),(3) 仮名のみで表記された空白部のない文章(Kana-NS),(4) 漢字仮名交じりで表記された空白部のない文章(Kanji-NS) であった。左右前頭領域において音読中のOxy-Hb波形はReading課題よりもRST課題で有意に増大していた。RST課題においては,Kana-SおよびKanji-NS条件(馴染みのある表記法)に比べてKana-NSおよびKanji-S条件(馴染みのない表記法)で,標的語の想起中に右背外側前頭皮質においてOxy-Hb波形が有意に増大していた。これらの結果から表記法に馴染みのない文章に対する言語性ワーキングメモリには注意制御がより必要であることが示唆された。