2017 Volume 50 Issue 1-2 Pages 15-28
マラリアは熱帯・亜熱帯地域を中心に流行し,現在でも世界中で年間2億人の新規罹患者と40万人以上の死者を出す感染症である.その甚大な被害から,マラリアはエイズや結核とともに世界三大感染症の1つとされており,撲滅に向けた活動が精力的に行われている.しかし,マラリア治療薬に対する薬剤耐性原虫が世界各地で出現し,また,有効なマラリアワクチンはいまだに実用化されていない.これらの現状を考えると,マラリア防御免疫機構の詳細な解明は喫緊の課題である.我々は,齧歯類マラリア原虫Plasmodium bergheiの弱毒株をマウスに感染させたマウスマラリアモデルを駆使して,自然免疫様リンパ球の1つであるγδ T細胞が関連する防御免疫機構を解明してきた.本総説では,これまでわかっている赤内型マラリア感染免疫機構に関する情報をまとめつつ,我々のマウスマラリアモデルを用いた最新の研究の成果を紹介する.
マラリアは,アピコンプレックス門無コノイド綱住血胞子虫目プラスモジウム科に属するマラリア原虫(Plasmodium属)の感染によって引き起こされる疾患である.これまでに,哺乳類,鳥類,爬虫類などに感染するマラリア原虫が100種以上確認されている(Martinsen et al., 2008).ヒトに感染するマラリア原虫は,従来,熱帯熱マラリア原虫(P. falciparum),三日熱マラリア原虫(P. vivax),四日熱マラリア原虫(P. malariae),卵形マラリア原虫(P. ovale)の4種類とされていた.2004年,マレーシア・ボルネオ島でサルに感染するマラリア原虫の1種であるP. knowlesiのヒト集団感染例が報告されて以来(Singh et al., 2004)このサルマラリア原虫が5種類目のヒト感染性マラリア原虫として注目を集めている.一方,患者数とその重症度,薬剤耐性原虫の出現などを考慮すると,これらのうちで最も重要なものは熱帯熱マラリア原虫である(Fig. 1).マラリアの主徴は発熱,貧血,脾腫であるが,重症患者においては,昏睡などをともなう脳症,急性腎障害,代謝性アシドーシス,肺水腫,低血糖,黒水熱(高度の血色素尿症)などの併発がみられることがある.
マラリア原虫は非常に複雑な生活史をもっている(Inoue et al., 2013; Ménard et al., 2013)(Fig. 2).マラリア原虫のベクター(媒介昆虫)はハマダラカ(Anopheles属)である.マラリア原虫に感染しているハマダラカがヒトを吸血する際に,ハマダラカの唾液腺よりマラリア原虫のスポロゾイトがヒト体内に侵入し,感染する.ハマダラカの刺咬によって皮膚に注入されたスポロゾイトは血行性・リンパ行性に肝臓に移動し,肝細胞に侵入する(赤外期).スポロゾイトは肝細胞内で形態を変化させ,増殖して数万個のメロゾイトとなる.なお,三日熱マラリア原虫や卵形マラリア原虫においては,肝細胞に侵入した原虫の一部は増殖を止めて休眠型(ヒプノゾイト)となり,数カ月~数年後に増殖が開始されるためにマラリア再発(relapse)の原因となる.一方,数万倍に増殖したメロゾイトは,肝細胞を破壊して血流中に放出される.メロゾイトは赤血球への侵入能力を獲得し,赤血球に感染する(赤内期).赤血球に感染したメロゾイトは,輪状体,アメーバ体,分裂体へと形態を変化させながら発育・増殖する.分裂体が破裂すると,8~32個のメロゾイトが血流中に放出され,メロゾイトは新たな赤血球に感染して増殖する.この赤血球感染サイクルが繰り返されることによって,ヒトは発熱,貧血,脾腫の三大主徴をともなったマラリアを発症するのである.ヒト体内におけるマラリア原虫は無性生殖により増殖するが,赤血球内のマラリア原虫の一部は雌雄の生殖母体(ガメトサイト)に分化する.ハマダラカがこのガメトサイトを含む血液を吸血すると,雌雄のガメトサイトはハマダラカの中腸において雌雄の生殖体(ガメート)となり,これらが受精して接合体(チゴート)となる.チゴートはオーキネートとなり,中腸内部から中腸壁に侵入・通過して蚊の体腔側へ移動し,中腸基底膜でオーシストを形成する(Fig. 2).オーシスト内部では分裂が繰り返されて数千のスポロゾイトが形成される.この後,オーシストが破裂すると,体腔中に放出されたスポロゾイトは唾液腺に移行して感染性を獲得する(Fig. 2).この唾液腺内の成熟スポロゾイトが,ハマダラカの吸血の際にヒトに侵入して感染するのである.
これまで世界中で巨額の研究開発費が投じられてきたにもかかわらず,ヒト感染性マラリア原虫に対する有効なワクチンはいまだ開発に成功していない.この現状を打破するためには,マラリア重症化機構や防御免疫機構を詳細に理解する必要がある.しかしながら,健常人やマラリア患者などのヒトサンプルを用いた研究では,その倫理的な側面から患者の末梢血液や重症マラリア患者の剖検例などの限られたサンプルに頼らざるを得ず,得られる情報量にも限りがあることは否めない.マラリア免疫の中心的な“場”となる臓器は二次リンパ組織の脾臓である(Grun et al., 1985; Looareesuwan et al., 1993; Yap and Stevenson, 1994).しかしながら,マラリア免疫が賦活化した状態の脾臓サンプルを患者から自在に得ることはできない.そこで,P. berghei, P. yoelii, P. chabaudiなどの齧歯類に感染するマラリア原虫をマウスに感染させたマウスマラリアモデルが非常に有用な研究リソースとなる.齧歯類マラリア原虫には,感染後に宿主を死に至らしめる強毒株と,感染後に宿主に防御免疫が成立して最終的に宿主から排除される弱毒株などが存在する.弱毒株マラリア原虫は防御免疫機構の解析などに用いられ,強毒株マラリア原虫はマラリア重症化機構の解析などに用いられる.このように,マラリア原虫の種や株を使い分けることにより,様々なマラリア感染における免疫防御・制御機構の解析が可能である.一方,マウスとヒトの免疫には多くの相違点が存在することから,これらマウスマラリアモデルにおいて起こる現象をそのままヒトのマラリアでも起こる現象としてとらえるのには注意が必要である.しかし,これらマウスマラリアモデルが,マラリア防御免疫機構や免疫病態機構を詳細に理解するために不可欠なリソースであることは疑いの余地がない.先に述べたように,マラリアは原虫が侵入した直後の肝細胞内での増殖期(赤外期)ではなく,赤血球内での増殖期(赤内期)に発症する.そこでマラリア免疫の研究は主に赤内型マラリアについて行われる.本総説においても赤内型マラリアに関する研究を紹介することとし,赤外型マラリア免疫については触れない.
生体内における免疫応答は,自然免疫応答と獲得免疫応答の2つに大別できる.自然免疫にはマクロファージ,樹状細胞,ナチュラルキラー細胞などが働いている.これら自然免疫細胞は,体内に侵入した病原体や病原体感染細胞などの異常細胞を“速やかに感知”して,それを排除する能力を持っている.したがって,自然免疫細胞は生体防御の最前線において活躍しているといえる.ただし,自然免疫は即時的に働くものの,病原体や異常細胞に対する特異性は高くない.一方,獲得免疫応答において働くヘルパーT細胞などの獲得免疫細胞は,樹状細胞などの抗原提示によって病原体や異常細胞を間接的に認識する.さらに,B細胞は,抗原に親和性の高い抗体を産生するために体細胞突然変異やヘルパーT細胞による補助(ヘルプ)を必要とする.したがって,自然免疫と比較すると,獲得免疫の成立には長い時間を要する.獲得免疫は,自然免疫細胞で病原体や異常細胞を排除しきれなかった場合に特に強く誘導され,病原体や異常細胞を特異的かつ強力に排除して生体防御を終息させることが可能である.本総説では,赤内期マラリア免疫における自然免疫応答と獲得免疫応答の仕組みを紹介する.
獲得免疫に働く主要なT細胞は,病原体感染細胞などに直接的な攻撃を仕掛けるキラーT細胞として機能するCD8+ T細胞と,B細胞による抗体産生を助けるヘルパーT細胞として機能するCD4+ T細胞との2つに大別される.CD4+ T細胞は,B細胞ヘルプという役割以外にも,炎症性サイトカインであるガンマインターフェロン(IFN-γ)や抗炎症性サイトカインであるインターロイキン-10(IL-10)などを分泌することでマクロファージなどの貪食機能をコントロールする“細胞性免疫の司令塔”としての役割も担っている.このCD4+ T細胞の欠損マウスでは,P. chabaudiやP. vinckei, P. berghei XATなどの弱毒株マラリア原虫の赤内型感染に対する防御免疫が極めて低下していることから,CD4+ T細胞は防御免疫に重要な役割を持つことが強く示唆されている(Süss et al., 1988; Kumar et al., 1989; Podoba and Stevenson, 1991; Waki et al., 1992; Inoue et al., 2012).さらに,CD4+ T細胞の欠損マウスでは強毒株マラリア原虫P. berghei ANKA感染による脳マラリアの発症が抑制されることから,CD4+ T細胞はマラリア防御免疫のみならずマラリア重症化にも強く関与していることが知られている(Yañez et al., 1996; Villegas-Mendez et al., 2012).CD4+ T細胞はIFN-γの主要な産生細胞であるが,このIFN-γやIFN-γ受容体の欠損マウスでは,弱毒株マラリア原虫の赤内型感染に対する防御免疫が強く抑制される(van der Heyde et al., 1997; Favre et al., 1997; Su and Stevenson, 2000).また,これらIFN-γやIFN-γ受容体の欠損マウスでは,P. berghei強毒株マラリア原虫の感染により引き起こされる脳マラリアや肝障害の発症が大きく緩和されることがわかっている(Villegas-Mendez et al., 2012; Yoshimoto et al., 1998; Amani et al., 2000).したがって,このCD4+ T細胞によるIFN-γ産生がマラリア防御免疫と重症化の両面に大きく影響していると考えられる.
CD8+ T細胞については,その欠損マウスでもP. chabaudiやP. berghei XATなどの弱毒株マラリア原虫の赤内型感染に対する防御免疫には大きな変化が見られないことから,CD8+ T細胞については防御免疫への関与が少ないと考えられている(Süss et al., 1988; Podoba and Stevenson, 1991; Waki et al., 1992).しかしながら,P. yoeliiの弱毒株マラリア原虫の赤内型感染を繰り返したマウスから取り出したCD8+ T細胞を別のnaïveマウスに移入した場合,P. yoeliiの強毒株マラリア原虫を排除できる(Imai et al., 2010).したがって,CD8+ T細胞は免疫獲得後の防御免疫において重要な役割を持っている可能性がある.一方,マラリアの重症化に関しては,このCD8+ T細胞が大きく関与している.まず,CD8+ T細胞の欠損マウスでは,P. berghei強毒株マラリア原虫の感染により引き起こされる脳マラリアの発症が大きく緩和される(Hermsen et al., 1997; Belnoue et al., 2002; Haque et al., 2011).さらに,CD8+ T細胞が産生するGranzyme BやPerforinなどの欠損マウスでも強毒株マラリア原虫P. berghei ANKAの感染により引き起こされる脳マラリアの発症が大きく緩和される(Haque et al., 2011).CD8+ T細胞はCD4+ T細胞と同様にIFN-γ産生細胞でありかつ脾臓にも多く存在するために,マラリア感染におけるIFN-γ産生に関与していることが推察できる.しかし,少なくともCD8+ T細胞はIFN-γを介して脳マラリアの発症に関与しているのではないと考えられる(Haque et al., 2011).
マラリア患者サンプルやマウスマラリア原虫を用いた研究により,近年,マラリア原虫感染によってCD4+ T細胞にT細胞疲弊という現象が起こることが明らかとなった(Butler et al., 2011).このT細胞疲弊は,ウイルスの慢性感染やがん組織などにおいて,CD8+ T細胞やCD4+ T細胞が長い間抗原刺激を受け続けることで起こる現象である(Wherry and Kurachi, 2015).T細胞疲弊はT細胞の持続的な機能障害状態であり,IFN-γやTNF-αなどの炎症性サイトカインの産生能や細胞増殖能が低下する.また,T細胞疲弊はProgrammed death-1(PD-1)やLymphocyte-activation gene-3(LAG-3)などの抑制性レセプターの発現上昇を特徴としており,その解除には抑制性レセプターによるブロック抗体が有効である(Nguyen and Ohashi, 2015).マラリア原虫P. yoeliiを感染させたマウスでは,一時的にCD4+ T細胞が活性化されるものの,その後T細胞疲弊が起こる.そのマウスに抗PD-L1抗体と抗LAG-3抗体を投与することによって,T細胞疲弊を起こしたCD4+ T細胞の機能が回復して原虫排除が促進されることが示された(Butler et al., 2011).
T細胞は,その細胞表面に発現するT細胞レセプター(T cell receptor: TCR)のα鎖とβ鎖を発現しているαβ T細胞と,γ鎖とδ鎖を発現しているγδ T細胞の2つに分類される.CD4+ T細胞などのαβ T細胞が獲得免疫に働く細胞であるのに対して,γδ T細胞は獲得免疫機能に加えて自然免疫機能の性質も持つため,自然免疫様リンパ球とも呼ばれている(Inoue et al., 2013; Vantourout and Hayday, 2013).γδ T細胞は,生体内でのがん細胞の監視,移植片対宿主病,皮膚組織の傷害治癒に働くなどの様々な機能を持ち(Girardi et al., 2001; Maeda et al., 2005; Jameson et al., 2002),細菌やウイルスや寄生虫などの病原体が引き起こす感染症に対する免疫応答においても重要な役割を担う(Dodd et al., 2009; Hiromatsu et al., 1992; Hisaeda et al., 1995; Rosat et al., 1993; Shi et al., 2011; Wang et al., 2003; Weidanz et al., 2010).マラリア患者やマラリア原虫感染動物では,このγδ T細胞が末梢血や脾臓で増加することが報告されている(Inoue et al., 2012; Ho et al., 1990; Nakazawa et al., 1994).さらに,熱帯熱マラリア原虫に感染した赤血球とヒト末梢血単核細胞画分を共培養すると,末梢血単核細胞画分に含まれているγδ T細胞が活性化して増殖することが報告されている(Behr et al., 1996).ヒトγδ T細胞が認識するマラリア抗原としては,マラリア原虫の代謝産物であるリン酸抗原が知られている(Behr et al., 1996).このリン酸抗原は,主要組織適合遺伝子複合体(major histocompatibility complex: MHC)ではなくbutyrophilin 3A1分子を介してγδTCRにより認識される(Harly et al., 2012).いくつかの報告では,γδ T細胞の増殖にはIL-2シグナルが重要であるとされている(Elloso et al., 1996; Ribot et al., 2012).さらに,γδ T細胞にはToll-like receptor(TLR)が発現しており,γδTCRシグナルの刺激によってTLR発現が増強されることが報告されている(Deetz et al., 2006; Mokuno et al., 2002; Pietschmann et al., 2009).哺乳類などには存在せず,微生物に普遍的に存在する物質で,自然免疫において病原微生物の排除に関わる分子のことを病原体関連分子パターン(pathogen-associated molecular patterns: PAMPs)と呼ぶ.PAMPsは宿主細胞に発現するTLRなどのパターン認識レセプターによって認識されるが,マラリア原虫には多様なPAMPsが存在する(Baccarella et al., 2013; Coban et al., 2005; Krishnegowda et al., 2005).したがって,TLRはγδ T細胞のマラリア原虫認識とその免疫応答に関わっている可能性がある.しかし,ヒトγδ T細胞は,直接TLRシグナルにより活性化されるのではなく,TLRシグナルにより活性化した樹状細胞を介してγδ T細胞が活性化していることが報告されている(Devilder et al., 2009).マラリアにおけるTLRシグナルとγδ T細胞の活性化の関係性についてはさらなる検討が必要である.
マラリア流行地域における熱帯熱マラリア患者の末梢血単核球分画細胞を用いた研究により,γδ T細胞は,感染赤血球に応答してIFN-γを産生する割合が非常に高い細胞であることが明らかとなった.一方,同じく自然免疫リンパ球とされるNK細胞は,感染赤血球に応答したIFN-γ産生に関してはあまり貢献していないことが示された(D’Ombrain et al., 2008; Stanisic et al., 2014).しかし,熱帯熱マラリア原虫とヒト末梢血単核球分画細胞との共培養実験によって,ヒトNK細胞がIL-12とIL-18シグナルを介してIFN-γを産生しているとする報告もある(Artavanis-Tsakonas and Riley, 2002).γδ T細胞が産生するTNF-αなどのサイトカインは熱帯熱マラリアの重症度と関連していることから,γδ T細胞はマラリア重症化を促進しているとの見解もある(Stanisic et al., 2014).
ヒト末梢血単核球分画細胞と熱帯熱マラリア原虫感染赤血球を用いたin vitro共培養実験による研究や,マウスマラリアモデルを用いた研究により,γδ T細胞がマラリアに対する防御免疫に関与していることが示唆されてきた.しかし,その詳細な免疫機構や,脾臓におけるγδ T細胞の機能に関してはほとんど未解明であった.我々は,弱毒株マラリア原虫のP. berghei XATとγδ T細胞を特異的抗体で除去したマウスやTCR-δ KOマウス(γδ T細胞欠損マウス)を駆使することで,γδ T細胞が関連したマラリア防御免疫機構の全容解明に向けて研究を行っている.次節以降で,我々が得た結果について紹介する.
6-1.P. berghei XAT感染マウスにおけるγδ T細胞の必要性P. berghei XATは,致死性マラリア原虫のP. berghei NK65をX線照射後クローニングすることにより作製された弱毒性マラリア原虫株である(Waki et al., 1982).このP. berghei XATは,マラリアワクチン開発とマラリア原虫に対する防御免疫や,マラリア免疫記憶の獲得と維持機構を研究するために開発された.P. berghei XAT感染後に治癒したマウスでは,致死性マラリア原虫であるP. berghei NK65を制御する強い免疫が賦与される(Waki et al., 1992).P. berghei XATの感染赤血球を野生型マウスに接種すると,末梢血の感染赤血球率が幾度か上昇下降するものの最終的に原虫は排除される.一方,特異的抗体でγδ T細胞を除去した野生型マウスにP. berghei XATの感染赤血球を接種すると,原虫を制御できずに高原虫血症を呈し全個体が死亡してしまう(Inoue et al., 2012; Kobayashi et al., 2007)(Fig. 3).さらに,γδ T細胞欠損マウスでも,P. berghei XAT感染によって高原虫血症になり死亡することが確認された(Inoue et al., 2012).したがって,P. berghei XAT感染に対する防御免疫にはγδ T細胞が必須であることが強く示唆された.
P. chabaudiを用いた先行研究によって,マラリア原虫感染時におけるγδ T細胞の増殖はCD4+ T細胞に依存していることや,野生型マウスとγδ T細胞欠損マウスにおける末梢血中のマラリア原虫感染赤血球率に差異がみられるのは感染2週間後という感染後期であることが報告されていた(Seixas et al., 2002; van der Heyde et al., 1993).これらの報告から,γδ T細胞は,獲得免疫が成立する時期,すなわち,マラリア原虫感染後の“遅い時期”に働く細胞であると推測されていた.しかし我々がP. bergheiを用いて実験/研究を行ったところ,原虫感染後の遅い時期(感染後10日目)に特異的抗体を投与してγδ T細胞を除去してもマラリア原虫は排除されたことから,感染後期に増殖したγδ T細胞は原虫排除には関与しないことが明らかとなった.さらに,感染前からγδ T細胞の除去を始めたマウスでは,高い感染赤血球率を呈し,全個体が死亡した(Inoue et al., 2012).これらの結果は,マラリア防御免疫においてγδ T細胞は“感染初期”に防御免疫を亢進する機能を発揮していることを強く示唆するものであった.そこで,P. berghei XAT感染初期にみられる樹状細胞活性化を比較解析したところ,γδ T細胞欠損マウスでは野生型マウスと比較して樹状細胞の活性化が弱いことがわかった.さらに,P. berghei XAT感染マウスのγδ T細胞を経時的に解析した結果,感染初期(感染後5日目)においてγδ T細胞によるIFN-γ産生の亢進がみられるとともに,γδ T細胞膜上のCD40 Ligand(CD40L)発現が上昇していた(Inoue et al., 2012).IFN-γは樹状細胞表面のIFN-γレセプター刺激によって,また,CD40Lは樹状細胞表面のCD40分子との結合によって樹状細胞の活性化を促進することが知られている.我々の感染系において,P. berghei XATをIFN-γシグナル欠損マウス(IFN-γR1 KOマウス)に感染させると,感染後の樹状細胞の活性化が強く抑制された(Inoue et al., 2017).また,P. berghei XAT感染初期における樹状細胞の活性化は,CD40分子に対するアゴニスト抗体の投与によって亢進された(Inoue et al., 2014).さらに,γδ T細胞欠損マウスでも,感染初期にCD40分子に対するアゴニスト抗体を投与して樹状細胞の活性化を補助すると,P. berghei XATマラリア原虫を排除できた(Inoue et al., 2014).これらの結果は,マラリア原虫感染後の“初期”に,γδ T細胞がIFN-γ産生やCD40L発現を介して樹状細胞活性化を促進することでマラリア防御免疫を亢進していることを示している.以上の結果から得られた知見をもとに,γδ T細胞によるマラリア原虫感染防御機構の概要をFig. 4にまとめた.一方,P. berghei XAT感染系では,樹状細胞の活性化によりIL-12産生が誘導され,その結果,IFN-γ産生性のCD4+ T細胞であるTh1細胞の分化が強く促進されることがわかった(Inoue et al., 2012).先に述べたように,CD4+ T細胞とIFN-γはP. berghei XAT原虫の防御免疫において中心的な役割を担っている.γδ T細胞による補助によってTh1免疫応答が充分に起こることにより,その後のB細胞による原虫特異的抗体の産生(IgG2aもしくはIgG2c)やマクロファージなどの貪食機能が亢進され,その結果として,P. berghei XATを効率的に排除すると考えられる(Fig. 4).つまり,γδ T細胞は直接的にマラリア原虫を攻撃する機能にすぐれているというより,獲得免疫と自然免疫との間を取り持ってマラリア防御免疫の調和をはかっているのだろう.
γδ T細胞は生体内において様々な役割を担っている.その多機能性は,γδ T細胞が産生する様々なサイトカインやケモカインに関係していると考えられている(Vantourout and Hayday, 2013).γδ T細胞の機能は,発現するTCRのVγ遺伝子とVδ遺伝子の組み合わせ(レパトア)によって制限され,各γδ T細胞レパトアは,特定の組織へと配置される.マウスとヒトのレパトアとでは構成が異なるため,そのまま比較することはできない.そこで,マウスとヒトの各レパトアが産生するサイトカインやケモカインなどの機能を特定し,比較をすることが重要である.C57BL/6マウスの脾臓には,約40%のVγ1+と約30%のVγ4+(Heilig/利根川式分類法)のγδ T細胞レパトアが存在する(Inoue et al., 2017).これまで我々は,P. berghei XAT感染防御免疫にγδ T細胞が重要な役割を担っていることを報告してきたが(Inoue et al., 2012; Kobayashi et al., 2007; Inoue et al., 2014),Vγ1+とVγ4+のどちらのγδ T細胞レパトアが重要なのか明らかになっていなかった.最近我々は,特異的抗体によって各γδ T細胞レパトアの細胞を除去することにより,マラリア感染防御に重要なγδ T細胞レパトアについての検討を行った(Inoue et al., 2017).その結果,P. berghei XAT感染マウスにおいてVγ1+ γδ T細胞を除去すると感染が制御されず高い感染赤血球率を呈して多くのマウスが死亡したが,Vγ4+ γδ T細胞の除去ではコントロールマウスでの感染と同様にすべての個体が生存した.これらの結果から,P. berghei XAT感染防御免疫にはVγ1+ γδ T細胞が重要な役割を果たすことが明らかとなった(Fig. 5).P. berghei XAT感染後,IFN-γ産生能に関してはVγ1+とVγ4+のどちらのγδ T細胞においても上昇がみられたが,CD40L発現に関してはVγ1+ γδ T細胞に特異的にみられた.さらに,感染経過にともなってVγ1+ γδ T細胞の占める割合が大きく増加し,逆にVγ4+ γδ T細胞の割合が低下していった.これらの結果は,Vγ1+ γδ T細胞がP. berghei XAT感染において優位な応答をしていることを示している.Vγ1+ γδ T細胞が優位に応答する詳細なメカニズムは未解明であるが,IFN-γ受容体欠損マウスではVγ1+ γδ T細胞優位な応答がみられなかった.さらに,Vγ1+ γδ T細胞の優位な応答はVγ1+ γδ T細胞自体によるIFN-γシグナルが原因ではないことが確認された(Inoue et al., 2017).IFN-γにより活性化した樹状細胞から産生されるIL-12によってVγ1+ γδ T細胞が活性化・増殖しているという可能性があり,さらに検討を進めている(Fig. 5).
マラリア原虫感染によって宿主のCD4+ T細胞にT細胞疲弊が起こることが確認されている(Butler et al., 2011).最近,Feeneyの研究グループによって,マラリアに頻回感染した患者では,末梢血γδ T細胞においてもT細胞疲弊が起きている可能性が示唆された(Jagannathan et al., 2014).そこで我々は,P. berghei XAT感染マウスを用いて,マウスマラリアモデルにおいてもγδ T細胞のT細胞疲弊が起こるのか検討した(Inoue et al., 2017).P. berghei XAT感染初期において,γδ T細胞は活性化してIFN-γ産生を亢進する.しかし,P. berghei XAT感染後14日が経過すると,γδ T細胞のIFN-γ産生能が強く抑制されることがわかった.γδ T細胞をレパトア別に解析すると,Vγ1+ γδ T細胞のIFN-γ産生能は強く抑制されていたが,Vγ4+ γδ T細胞のIFN-γ産生能は抑制されていなかった.さらに,抑制性レセプターであるPD-1, LAG-3, T-cell immunoglobulin and mucin domain 3(TIM-3)の発現はVγ1+ γδ T細胞とVγ4+ γδ T細胞ともに上昇していたが,Vγ1+ γδ T細胞における発現量が極めて強かった(Inoue et al., 2017).これらの結果から,マウスマラリアモデルにおいてもγδ T細胞のT細胞疲弊が起こることが明らかとなった(Fig. 6).ヒトのV γ9+δ2+ γδ T細胞と異なり,マウスのVγ1+ γδ T細胞のマラリア抗原特異性はわかっていないため,今後は抗原の探索やその活性化機構の解明が重要となる.最近,Schofieldらは,P. chabaudiを用いた実験系においても,γδ T細胞にT細胞疲弊が引き起こされることを報告した(Schofield et al., 2017).同文献においてSchofieldらは,サイトカインのIL-12とIL-18を添加したin vitro培養によってヒトγδ T細胞のT細胞疲弊を誘導できることや,マラリア患者の血中IL-18濃度とγδ T細胞によるTIM-3発現の割合に正の相関があることを明らかにしている.したがって,これらサイトカインによる刺激もγδ T細胞の増幅とT細胞疲弊に関与していると推測される.
T細胞疲弊はT細胞の持続的な機能障害状態であり,T細胞疲弊の生体内での役割は過剰な炎症反応を抑えることにある.したがって,単純に考えるとT細胞疲弊を解除することは生体にとって好ましくないことのように思える.しかし,抑制性レセプターに対するブロック抗体をがん患者やがんモデルマウスに投与することによりT細胞疲弊を引き起こしたキラーT細胞の機能が回復し,がん細胞の排除が亢進されることが広く知られている(Wherry and Kurachi, 2015).また,マウスマラリアモデルにおいても,抑制性レセプターに対するブロック抗体投与によって,T細胞疲弊を起こしたヘルパーT細胞の機能が回復し,マラリア原虫排除が亢進されたという報告がある(Butler et al., 2011).一方,Feeneyの研究グループは,γδ T細胞がマラリア原虫の感染赤血球に応答して炎症性サイトカインを強く産生する細胞であることから,マラリアに頻回感染した患者体内でγδ T細胞疲弊が起これば,それが過剰な炎症を抑えてマラリア発症を防ぐ効果を示すだろうと考察している(Jagannathan et al., 2014).この考察が正しければ,γδ T細胞疲弊を起こした細胞はそのまま機能不全状態に陥って維持されることが生体にとっては好都合であると考えられる.しかし,マウスマラリアモデルを用いた我々の研究結果から,γδ T細胞の活性化が起こることにより獲得免疫が充分に誘導されることが示された.したがって,マラリアに頻回感染した患者では,γδ T細胞が繰り返し応答することによりヘルパーT細胞やB細胞などによる獲得免疫がより充分に誘導されている状態にあると考えられる.マラリア防御免疫にとってγδ T細胞疲弊を起こしたままの状態で維持しておくほうがよいのか,それともγδ T細胞の機能回復をはかったほうがよいのかについては,さらなる研究が必要であろう.最近,Zehnの研究グループによって,T細胞疲弊という現象に関する非常に興味深い報告がされた.ウイルス感染の慢性感染により,キラーT細胞は,抑制性レセプターの発現亢進やIFN-γなどの炎症性サイトカインの産生抑制といったT細胞疲弊の表現型を示すようになる.しかし,これらのT細胞疲弊の表現型を示した細胞の一部は,長く生体内に残存していた.そして,T細胞疲弊の表現型を示した細胞は機能不全に陥ってしまうわけではなく,ウイルスの二次感染時にこれらのT細胞疲弊の表現型を示した細胞が“適度な炎症性サイトカインの産生”をすることでウイルスに対する生体防御を効率的に行っていた(Utzschneider et al., 2013).つまり,T細胞疲弊の表現型を示した細胞は最終的に機能不全状態となってしまう不要な細胞ではなく,その分化が制御されたある種の記憶T細胞の途中段階であるのかもしれないのだ.したがって,マラリアにおけるγδ T細胞疲弊という現象においても,その細胞機能と生体防御における役割について,より詳細に解析することが重要であろう.
マラリア防御免疫における各種免疫細胞の役割,主に自然免疫様細胞であるγδ T細胞についてこれまでに得られている知見を我々の研究成果を含めて紹介した.マラリア感染制御に向けた世界規模の活動によって,マラリアの年間新規罹患者と死亡数はここ10年で大きく減少している(WHO Malaria Report 2015: http://www.who.int/malaria/publications/world-malaria-report-2015/en/).しかし,マラリア特効薬であるアルテミシニンに対する耐性原虫が東南アジアで出現したことや効果的なマラリアワクチンがいまだに世に出ていないことなど,マラリア撲滅に対する不安要素はいまだ多く存在する.世界各地で行われている疫学研究や臨床研究に加え,基礎研究の蓄積によってマラリア防御免疫の詳細な仕組みの全容を解明することが,将来,マラリア撲滅に大きく寄与することになると期待している.
本総説を執筆する機会を与えてくださった,沼田治 日本原生生物学会長,廣野雅文 原生動物学雑誌編集長に深く感謝いたします.本研究は日本学術振興会からの科研費 基盤研究(C)(No. 15K08451;研究代表者 小林富美惠)と科研費若手研究(B)(No. 15K19085;研究代表者 井上信一),さらに,国立研究開発法人日本医療研究開発機構(AMED)からの戦略的国際科学技術協力推進事業(SICP;研究代表者 小林富美惠)の助成を受けて実施されました.