日本補綴歯科学会雑誌
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義歯安定剤の咀嚼機能への影響
早川 巖
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2003 年 47 巻 3 号 p. 484-490

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抄録

義歯安定剤については, 講義で聞いたこともなく, 教科書にも記載は少なく, それも使用すると嵌合位が狂う, 短期間で顎堤に著しい吸収が起こるなど, 否定的なものに限られていた. 義歯の製作に携わる者の多くは, 義歯の維持力の不足は不適切な臨床, 技工操作が原因であり, これをカバーするために義歯安定剤を使用することは悪いとしてきた. 一方, 近年, 特に欧米では, 義歯安定剤 (粘着剤) の使用が義歯治療において合理的で効果的であるとの報告が多くみられるようになり, 歯科医の正しい指示に従って適切に使用されさえすれば快適に用いることができるとしている. ここでは, 文献レビューならびに著者らの研究を紹介しながら, 義歯粘着剤を使用した際の義歯の動揺および咀嚼機能に及ぼす影響に焦点をあてて検討を加えた. 義歯粘着剤は, 適合の悪い義歯でさえ, 維持力を大きく向上させる効果があることが示唆された. 患者へのアンケート調査においても, 義歯の安定, 咀嚼の快適さ, 食物残渣の義歯床下への侵入阻止などで, 高い評価が得られたと報告されている. しかし, 患者が満足するほど動揺を抑えられるということになると, 患者自身で安易に粘着剤を用いて, 治療が必要な義歯をそのまま使用しつづけることが危惧される. 適合の悪い義歯を使用しつづければ, 口腔内の状況を悪化させてしまう恐れがある. 義歯粘着剤を用いる前にまず歯科医の診察を受けなければならない. 歯科医は, 不適合義歯を修正するか, 新義歯を製作し, 次いでよりいっそうの維持力の向上を図る必要があれば, そこで初めて粘着剤を用いることになる. 義歯粘着剤の使用は, 特に顎堤の状態が悪い症例において, 義歯の維持と安定を向上させ, 咬合力を増加し, 咀嚼リズムを安定させることにより, 咀嚼能力を向上させる効果があることが示唆された. 他方, 義歯の維持と安定がよい顎堤状態の良好な症例では, 義歯粘着剤により維持力と咬合力をさらに増加させても, 咀嚼能力にその効果が現れなかった. 顎堤状態が良好な症例では, 咀嚼機能を考えた場合, 義歯粘着剤を用いて義歯の維持と安定をより向上させる必要がないことが示唆された.

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