2016 年 55 巻 4 号 p. 535-543
浸潤型真菌症は重篤な症状を呈して,時に致死的な状況となることがある。また,蝶形骨洞は頭蓋底や海綿静脈洞などの重要な構造物と近接しているため,炎症の周囲への波及により頭蓋内合併症や脳神経麻痺などの症状をきたすことがある。このことから,浸潤型蝶形骨洞真菌症は早急な診断と適切な治療が必要とされる。
今回,外転神経麻痺で発症した臨床的に浸潤型蝶形骨洞真菌症が疑われた症例を経験した。症例は81歳男性で複視を主訴に当院神経内科を受診,MRIで蝶形骨洞真菌症が疑われ当科紹介となった。複視以外の症状は認めなかった。CTで,右蝶形骨洞内に石灰化を伴う軟部組織陰影を認め,外転神経の走行に一致する蝶形骨洞後壁,斜台部に骨欠損を認めた。また血中β-Dグルカン値は基準範囲内であったが,血中アスペルギルス抗原値は上昇を認めた。臨床経過,画像所見,血液検査所見から浸潤型蝶形骨洞真菌症が疑われた。治療としては内視鏡下鼻内副鼻腔手術,アゾール系抗真菌薬のVRCZの経口投与を行った。治療経過は良好で,複視は消失し,血中アスペルギルス抗原値も低下した。
血中アスペルギルス抗原の測定は,浸潤型副鼻腔真菌症の早期診断,治療効果の評価に有用と考えられた。