日本鼻科学会会誌
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症例報告
鼻出血を契機に発見された腎細胞癌副鼻腔転移例
岩村 泰荒井 康裕松本 悠和田 昂波多野 孝折舘 伸彦
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2023 年 62 巻 1 号 p. 153-158

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抄録

腎細胞癌は血行性転移が多いとされているが,鼻副鼻腔への転移は比較的稀とされる。鼻出血を契機に発見された腎細胞癌副鼻腔転移の1例を経験したので報告する。

症例は74歳男性。既往歴として,60歳時に腎細胞癌(淡明細胞癌)で右腎摘出,転移に対して66歳時に右副腎摘出,67歳時に左副腎摘出,71歳時に傍下大静脈周囲リンパ節摘出術を施行された。X日に右頬違和感を感じていたが改善した。X+90日に鼻出血を認め,持続するためX+117日に前医を初診した。右下鼻甲介後端付近から出血を認め焼灼止血を行った。止血後の診察で,徐々に下鼻道外側壁が腫脹してきたためCTを撮影したところ,上顎洞内を充満し周囲を圧迫する腫瘍性病変を認め当科紹介受診した。MRIでは,T1強調iso intensity,T2強調iso–high intensityで内部まだら状の上顎洞後壁に基部が予測される42 mm大の腫瘍性病変を認めた。診断的治療目的で全身麻酔下に上顎洞腫瘍摘出術を施行した。術中迅速病理では,高悪性度腫瘍は否定的であり,内視鏡下で腫瘍を適宜減量しながら骨面から剥離し肉眼的に全摘術を行った。術後病理診断の結果,淡明細胞癌であり,腎細胞癌の副鼻腔転移と診断した。術後22か月時点で再発を認めていない。

転移性鼻副鼻腔腫瘍の原発巣として,腎細胞癌は最多とされる。悪性腫瘍の既往のある症例に鼻副鼻腔腫瘍を認めた場合,転移の可能性を念頭に置く必要があると考えられた。

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