日本農村医学会雑誌
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短報
石灰硫黄合剤による化学熱傷
——障害の防止を求めて——
永美 大志大谷津 恭之加藤 絹枝前島 文夫西垣 良夫夏川 周介
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2010 年 59 巻 1 号 p. 44-49

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抄録

 石灰硫黄合剤は,春先に果樹の殺虫,殺菌に使用される農薬である。製剤は,強アルカリであり,しばしば難治性のアルカリ腐食を本態とする深達性の潰瘍を引き起こす。
 我々も2007年に50代男性の症例を経験した。患者は,3月上旬,防水性の防護具を着用せず庭木に本剤を散布し,ズボンなどへの付着にかまわず,そのまま作業を続行した。夕方より皮膚付着部の疼痛が惹起し,翌朝になっても継続したため受診した。初診時,両下腿後面に白色潰瘍を伴う3度の熱傷を認めた。第6病日デブリードマン術を施行したが,潰瘍は真皮層から脂肪層に及んでいた。人工真皮で被覆して肉芽形成を促した後,第20病日に植皮術を施行した。経過は順調で,約1か月で退院となった。
 わが国において2000年代に入ってからほぼ毎年,本剤による化学熱傷の症例が報告されており,他の研究報告を見ても,この熱傷の発生数がなかなか減少していないことが伺われた。
 この熱傷を防止するには,(1) 防水性の防護具で全身を覆うようにすること,(2) 万一本剤が身体に付着した場合は,迅速に洗浄すること,の2点が肝要である。障害防止のためのさらなる啓発活動が必要と考え,啓発パンフレットを作成した。

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© 2010 一般社団法人 日本農村医学会
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