2016 年 65 巻 2 号 p. 202-214
心肺運動負荷試験(CPX)は有用な検査であるが,実施可能な施設は限られている。CPXを実施せずに運動処方を行う場合,心拍数や自覚症状などが用いられているが短所もあるため他の指標も必要である。また,CPXのランプ負荷強度設定は一定の見解が得られていないのが実情である。最大歩行速度(MWS)は高齢者の運動機能を反映する簡便な指標であり,運動処方強度と関連性を認められればランプ負荷強度推定にも利用可能である。本研究の目的は高齢心疾患患者の運動処方強度とランプ負荷強度をMWSから推定することである。 対象は入院期の急性冠症候群(ACS)患者66例(前期高齢者49例,後期高齢者17例)である。調査項目は臨床的背景,CPX指標,10mのMWSである。MWSから運動処方強度を推定する目的で,運動処方強度を従属変数,他の調査項目を独立変数とした重回帰分析を実施した。さらに嫌気性代謝閾値(AT)時運動強度とMWS から適正なランプ負荷強度を推定した。 後期高齢者ではMWSのみが運動処方強度を推定する因子として選択された(調整済みR2=0.278,p=0.037)。しかし前期高齢者では有意な因子として選択されなかった。またランプ負荷強度の推定はAT 時運動強度とMWSの回帰式よりMWSが1.5m/s未満では5ワットランプ,1.5m/s以上では10ワットランプを利用することが適性と判断された。 結論として,MWSは後期高齢男性ACS患者の運動処方強度と関連があり,ランプ負荷強度に利用できる可能性が示唆された。