2016 年 65 巻 4 号 p. 857-861
肺動脈血栓症(PTE)の90%以上は深部静脈血栓症(DVT)に起因するといわれている。PTEは妊産婦死亡の原因となる代表的な疾患である。妊娠自体が血栓傾向の発生頻度を上げる原因の1つでもあることから,産科領域におけるDVTの管理及び治療は非常に重要である。また妊娠,産褥期にはプロテインC,プロテインSによる凝固抑制機構の変化が起こり,後天性に凝固が亢進した状態になっており,このことも血栓症のリスク因子の1つとなる。産科領域におけるDVT合併妊娠に対する確立された治療法はまだないが,今回我々はDVTとPTEを発症した低プロテインS活性妊婦に対して下大静脈フィルターを留置し分娩に至った1症例を経験したので報告する。