日本農村医学会雑誌
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農作業に起因する呼吸器障害 (農夫肺等) に関する研究
総括
野田 喜代一
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1976 年 25 巻 4 号 p. 540-542

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抄録

本研究の目的は, 農村における呼吸器障害め実態を明らかにし, その原因を追究して対策を樹立し, もって農山村住民の健康増進をはかることにある。本研究班が, 今年度 (昭和50年度) に, 昨年度にひきつづいて調査した農民の呼吸器障害の実態についての主な成績は次のとおりである。
(1) 高頭・他 (新潟県) の報告をみると, 農民が肺結核症, 肺癌, 肺化膿症のような重篤な疾患に罹患したとき, 農協病院をよく利用していることがわかった。
(2) 小西 (北海道) の農民を対象とする調査では, その呼吸器症状は加令にともなう呼吸機能の低下とともに, また健康度の低下にしたがって多発すること, また呼吸器症状を訴える者には貧血, 高血圧, 心疾患等の全身疾患を有する者が多いことをみとめた。秋田県でも高血圧症の合併が高率であった。
(3) 呼吸器症状の発現・悪化をきたす農作業については, 高頭他 (新潟県) の報告では, 頻度の上からは脱穀, もみすり, 堆肥づくり, 農薬散布などがもっとも重要であることをみとめた。また, 海老原・他 (静岡県) は, 茶摘み, 稲刈り, 野菜つくり, 脱穀に注目した。また海老原は農村住民に適切な呼吸機能検査法としてはFlow-volume Curveの使用がよいことをみとめた。
(4) 農作業に起因する特殊な呼吸器障害として, 気管支喘息がまず問題となる。今年度は神辺がイネワラ・モミガラによる, また, 海老原・他は茶および菊の葉の産毛による気管支喘息の存在を, いずれも免疫学的方法によって確認することができた。他方, 野村・上田はイ草じん肺について, 5年間の追跡調査を施行した結果, 胸X線も呼吸器症状も増悪の傾向にあることをみとめた。
(5) わが国にはまだ1例しか報告がみられない農夫肺については, 海塩他は東大物療内科宮本の協力を得て, 農民69例の免疫学的検索を施行した結果, thermoactinomycees vulgarisに対して4例, micropolyspora faeniに対して1例のゲル内沈降反応陽性者をみとめ, わが国における農夫肺の存在の可能性を確認することができた。また磯村 (長野県) は, 農夫肺を八千穂村住民, ことに牧草をあつかう人々について, 疫学的に調査をすすめ, その存在の可能性をみとめた。

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