日本農村医学会雑誌
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虚血性脳血管障害の近接予知
林 雅人細谷 賢一
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1988 年 36 巻 5 号 p. 1057-1064

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抄録

脳梗塞発症の危険因子としての心房細動の重要性に関する報告は多くあるが, 心房細動の内容, とくに心室停止時間, 心拍数, その変動幅等から虚血性脳血管障害の発症率に差があるかどうかという報告はない。今回, 心房細動432例, 脳梗塞182例を対象に, この点を念頭におき危険因子としての重要性を検討した。また, 脳卒中発症例の発症前データを2年前にさかのぼって検討し, 脳卒中の近接予知として重要な項目について考察した。さらに, 一過性脳虚血発症 (TIA) 41例を追跡調査し, 脳卒中発症時期についても若干の検討を加えた。
Holter心電図解析を導入し, 最長心室停止時間を検討したところ注目すべき結果が得られた。すなわち, 虚血性脳血管障害の発症率は心室停止時間が長く, 徐脈傾向の著しいものほど高く, 最長心室停止時間が2.5秒以下と4秒以上の間には有意差がみられた (p<0.05)。また, 徐脈傾向の著しい心房細動例ではCa-antagonist, β-blockerの使用率およびその併用率が有意に高く使用上の注意が必要と思われた。
心房細動患者の虚血性脳血管障害合併率は23.2%であり, 虚血性脳血管障害患者の心房細動合併率は23.6%と高率であった。また, 心房細動合併群の脳梗塞は非合併群に比し大梗塞が多く, 出血性梗塞となるものが多かった。急性期死亡率も高かった。
脳出血の近接予知上の重要項目としては, 既往歴で高血圧, 糖尿病, 症状で夜間頻尿, 倦怠感, めまい, 不眠, 心電図での肥大所見, 生化学検査での空腹時血糖, HbAl, 総コレステロール, BUNの異常が注目された。
脳梗塞の近接予知上の重要項目としては, 既往歴で高血圧, 心房細動, 症状で夜間頻尿, 肩こり, 易疫労感, もの忘れ, 心電図の肥大所見, 生化学検査での空腹時血糖, 総コレステロール, HDL-ch, HDL比, 中性脂肪, 尿酸値の異常が注目された。
TIAでは心房細動が危険因子として注目され, 観察期間 (平均16.5か月) 中の脳梗塞発症率は17.1%で, TIA発症後15.8か月で発症している。脳梗塞発症がTIA発作より15.8か月と比較的遅かったのは, 全体の75.2%が抗血小板療法または抗凝固療法を受けていたことに起因している可能性が考えられる。

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