日本農村医学会雑誌
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熊本赤十字病院におけるパラコート中毒症例の分析
パラコート中毒の実態と問題点を中心に
三原 修一上村 妙子小柳 敦子小山 和作
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1989 年 38 巻 1 号 p. 6-12

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抄録

パラコート剤はきわめて致死率の高い除草剤であり, 食品に混入するような犯罪も多発したことから大きな社会問題となり, 現在低濃度化されたパラコート剤が販売されている。
熊本赤十字病院でも過去12年間に190例のパラコート中毒症例を経験しており, 1982年の治療法改善後もその救命率は36.3%となっている。ここ数年の動向をみても, パラコート中毒症例は減少していないのが現状である。
さらにパラコート中毒症例の最近の傾向をみると, 誤飲や農作業中の事故が減少しており, 住民のパラコート中毒に対する認識の向上がうかがえるが, 対照的に自殺目的の服毒が増加している。また非農業従事者の中毒事故の割合も増加しており, 既に販売中止となっている旧製品による事故もいぜんとして多いことから, パラコート剤の保管管理の不十分さがうかがえるとともに, 旧製品の回収および使用禁止の措置が取られていなかったことも問題と思われる。また低濃度のパラコート剤でも, 1987年の中毒症例9例中6例が死亡している。
パラコート中毒は, 確実に有効な治療法が存在せず, 使用する本人の自覚や行政指導だけでは解決し得ない多くの問題を含んでいる。今後われわれは, 現在直面している問題の解決に向けて努力するのみでなく, 社会的犯罪を未然に防止するという意味からも, パラコート剤の農薬としての価値を再評価するとともに, その取り扱いに関して十分検討する余地があろうと思われた。

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