愛媛県農村地域の20才以上64才以下の男性266名について, 農業労働因子が栄養摂取, 高血圧症に及ぼす影響を検討するために, 栄養調査, 循環器検診および血清脂質測定を行なった。農業労働因子を量的に把握するために年問農業労働日数を指標にした。
農労日数の増加は臓器障害高血圧症の発現率を高くした。そして, 非農業者に比較して高穀類, 高糖質, 高食塩, 低蛋白質, 低脂肪の摂食傾向を生じさせた。この傾向は専業農業従事者よりも一種兼業従事者に顕著であった。さらに農業従事者, とくに一種兼業従事者において血清総コレステロール, β-リポ蛋白が低値であった。一方臓器障害高血圧症においては, 正常群に比較して低蛋白質, 低脂肪で摂取食品種類数が少ない摂取傾向を示した。よって, 農業従事者の高血圧症が臓器障害高血圧症へ進展する背景に, 農業労働因子のみではなく彼らの食生活特性の関与が示唆された。そして農労日数は農民の階層特性を把握する簡便な指標となり得た。