近年農業の機械化は急速に進展し, 水田, 畑作ともに乗用化, 多機能化, 多条化がはかられている. 本研究班では主として水田9機種, 畑作13機種の乗用型農業機械の騒音及び手腕系振動, 座席振動についてISO等国際標準に基づく測定法によって測定した. その結果, 乗用機械の実稼動時の騒音は少なからず日本産業衛生学会の許容基準を上回り, 聴覚障害のリスクが高いことが判明した. 手腕系振動は乗用型農業機械では振動レベルは低いが, 携帯型摘茶機などは高値を示した. 他方, 座席振動は現行の操作時間ではISOの許容曝露限界を上回るケースは例外的であるが, 長期的な健康影響を考慮するとき, 疲労・能率減退限界2時間を下回る機種が少なくなく, 機械の工学的改善が必要だと思われた. 作業者の健康影響については, 乗用型農業機械の長期間操作者では高周波帯域の聴力低下が明らかで, 臨床的に騒音性難聴と診断され得る症例がみられた.
今後農業経営規模の拡大, あるいは法人・会社組織化による農業機械のオペレータの専属化の進行は必至だと思われる. 本学会として, 農業機械の騒音及び振動の測定及び評価を組織的・体系的に行なう必要があり, 本研究班として健康障害予防の観点から今後の医学的, 衛生工学的対策の提言を試みた.