日本農村医学会雑誌
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クオリティ・オブ・ライフ (QOL) の構成要素と決定因子・修飾因子
宮北 隆志上田 厚
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1999 年 48 巻 4 号 p. 583-587

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抄録

カナダのトロント大学ヘルスプロモーションセンター (Center for Health Promotion: CHP) の研究グループは,「ヘルスプロモーションとリハビリテーションにおけるQOL」というタイトルの本を1996年に出版している。本稿では, CHPによって提示された「QOLの構成要素」と「QOLのフィールド (Quality of life field)」という概念モデルについて紹介したい。まず彼らは, QOLを「人々がそれぞれに与えられた人生の貴重な可能性をどれだけ享受しているかの度合い」と定義し,「Being」,「Belonging」,「Becoming」の三つの基本的要素と九つの下位要素から構成されるQOLのモデルを提案している。「Being」は, 個人としてどのような状態にあるかという最も基本的な側面を包括するもので, 身体的状態 (physical being), 心理的状態 (psychological being), 精神的状態 (spiritual being) の三つの下位要素,「Belonging」は, 個人が環境や周囲の人々にどのように適応/適合しているかに関連する三つの側面としての, 社会的帰属 (social belonging), コミュニティ帰属 (community belonging), 生態学的帰属 (ecological belonging) から,「Becoming」は, 各人がそれぞれの目標, 願望, 期待を達成するために何をするかといった目的のある活動に焦点をあてたもので, 日常生活 (practical becoming), 余暇活動 (leisure becoming), 自己実現 (growth becoming) のそれぞれ三つの下位要素から構成されるものとしている。また, QOLを直接的に規定する要因としての決定因子と, 決定因子の影響を強化したり緩和したりする修飾因子からなる「QOLのフィールド」では, 環境的決定因子, 個人的決定因子, そして, 自己決定/自己裁量, 潜在的機会/条件, 資源, 社会的支援システム, 技量, ライフイベント, 政治的変化, 環境的変化等の修飾因子とQOLとの関係がモデル化されている。生態学的な視点から生活のレベルで健康を捉え, 人々の暮らしに目を向けることの重要性が再認識されつつある今日, CHPによって提示された概念モデルは, 地域におけるヘルスプロモーションを具体的に実践していく上で非常に有用なモデルであり, 作業仮説の設定や施策づくりにおいて, 一つの手がかりを提供してくれるものと考えられる。

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