農作業従事者のストレスとその要因を解析するための調査票 (生活と健康調査票) を作成し, それを用いて, 農作業従事者のストレスの様態と, その対策を明らかにするとともに, 作成した調査票の妥当性と有効性を検討した。その結果, 農作業従事者の男性48%, 女性59%がストレスを感じており, それは, 年齢別には, 男女ともに60歳以上が60歳未満に比してより高率であった。強いストレッサーとして抽出された因子は, 作業の心理特性として「作業の要求度」に関する項目, 農作業の要素として「危険な設備」「重量物の運搬」「粉じん」「炎天下作業」「作業時間が長い」「不規則な食事」, ライフイベントとして「借金」「減収」「協同作業の不和」「近隣との不仲」「老人の介護」「子供の教育」「自分や家族の病気」であった。また, これらのストレッサーに対するストレスは, 女性が男性に比していずれもより強く現れることが示された。このことは, これまでの農業や農村生活のあり方が男性に比して女性により強くストレッサーとして影響していることを示唆するものと思われた。また, これらの変数を用いて, 農作業従事者の「生活満足度 (QOL)」の向上につながるストレス関与因子の構造モデルを作成し, 重回帰解析すると「QOL」を阻害する最も大きい, 直接的な要因は「ストレス」であり, それを増強させる因子は,「農作業の要求度」「農作業の要素」「ストレス症状の有訴」であり,「QOL」を向上させる最も大きい, 直接的な要因は「社会的支援」であった。これらの成績により, 農作業従事者の「QOL」を向上させるためには, 農作業従事者に比較的良く保たれている「作業の自由裁量度」を活かしつつ,「作業の要求度」を強める農作業の要素を改善し, JAをはじめ「社会的支援」につながる農村地域の様々なネットワーク組織を見直し, それを活用, 整備することが効果的であることが示唆された。
このように, 本研究において開発した調査票とその解析のプロセスは, 農作業従事者の遭遇する様々な局面, すなわち生活, 環境, 作業の様々な要素を, ストレスの面から捉えることにより, 農作業従事者の安全と健康の様態を明らかにし, その改善を図る上で, 現場に即した効果的な解析と実践の筋道を提示出来る可能性を持っていることが確かめられた。