2010 年 71 巻 10 号 p. 2611-2614
症例は47歳,男性.糖尿病,慢性腎不全による透析歴があり,今回は肺化膿症のため当院内科入院中であった.腹痛・嘔吐の精査で腹腔内膿瘍による小腸イレウスと診断し,緊急手術を施行した.術中所見は回盲部・ダグラス窩に膿瘍を認め,回腸が強固に癒着していた.回腸にわずかな穿孔部を認め,小腸穿孔による腹腔内膿瘍と考えられた.病理組織検査では回腸粘膜上に横川吸虫を認め,周囲には広範な浅い潰瘍と高度の好酸球浸潤が見られた.以上の所見から横川吸虫症による腸炎が穿孔の主因と考えられた.横川吸虫症の多くは無症状であるが,寄生数が増えると腹痛・下痢などの症状を呈するとされる.しかし,われわれの調べ得た範囲では,本例のように小腸穿孔を発症した報告は本邦初であり,文献的考察を加えて報告する.