2010 年 71 巻 10 号 p. 2620-2623
症例は54歳,女性.虫垂切除と胆嚢摘出で2回の開腹歴を有している.数年前からイレウス症状を繰り返していたため癒着性イレウスの診断で開腹術を行ったところ,十二指腸球部から上部空腸にかけて大小の多発憩室を認めた.他にイレウスの原因となる異常は認めなかった.本患者は若年期に子宮脱および腟脱を発症しており,臓器脱や圧出性憩室の形成から組織脆弱性が示唆され,家族歴や身体所見から臨床的にEhlers-Danlos症候群(EDS)と診断した.EDSは結合組織成分の異常により全身に多彩な臨床症状を呈する稀な遺伝性疾患である.本症例のイレウス症状は,EDSに伴う腸管の運動障害に起因すると考えられた. EDSに対する特異的な治療法はないが,時に出血や穿孔などの致命的な合併症をきたすことがあるため,疾患の特徴を踏まえた過不足のない経過観察が重要である.