2010 年 71 巻 10 号 p. 2728-2732
症例は90歳,男性.4年前に肺血栓塞栓症を発症し,先天性アンチトロンビン欠乏症と診断されていた.以後ワーファリンを処方され,当院内科通院中であった.貧血,便潜血陽性を認めた為,上下部消化管内視鏡検査を施行したところ,胃癌,上行結腸癌と診断された.AT-III活性42%と低値であり,手術4日前より術後4日目までAT-III製剤の投与を行い,手術3日前から術前までヘパリン化を行った.手術は幽門側胃切除術,右半結腸切除術を行った.術後3日目からヘパリン化を,術後7日目よりワーファリンを再開した.術中,術後共に血栓症の合併も無く,退院となった.本症を合併した手術において,血栓症予防のためAT-III製剤とヘパリンを投与し,良好な経過をたどった1症例を経験したので若干の文献的考察を加え報告する.