2010 年 71 巻 6 号 p. 1513-1517
症例は73歳,男性.1カ月前から黒色便を自覚し当院を紹介受診した.上部消化管内視鏡検査にて,胃体上部小彎と体中部後壁にそれぞれ1型腫瘍,前庭部に0-IIc病変を認め,生検でそれぞれadenocarcinomaと診断された.胃全摘,脾合併切除術,D2リンパ節郭清,Roux-en-Y再建を施行した.病理組織学的検査所見では,体中部後壁の腫瘍に低分化腺癌の部分と乳頭腺癌の部分を認めた.各々の組織型の間には形態の移行像がなく,明らかな境界を認めたことから衝突癌と考えられた.また,低分化腺癌の部分は高度なリンパ球浸潤を伴っていたため,Epstein-Barr virus encoded small RNA(EBER-1)に対するin situ hybridization法を追加したところ,低分化腺癌の部分はEBV陽性,乳頭腺癌の部分はEBV陰性であった.以上より,乳頭腺癌とEpstein-Barr virus関連胃癌の衝突癌と診断した.