抄録
症例は79歳,男性.胸部大動脈瘤に対するステントグラフト挿入3日後から感染性腸炎による腹痛,下痢を認めていた.13日目に腹部膨満,嘔吐が出現し,著明な炎症反応およびCTにてイレウス,腸管気腫,門脈ガス血症を認めた.腹部所見が軽度で,発熱認めず,腸管気腫も限局していたため,イレウス管による腸管減圧を行った.しかし,その8時間後,突然ショック状態に陥った.腹部造影CTにて小腸壁の造影不良領域を認め,腸管壊死を疑い緊急開腹術を施行した.十二指腸から右側結腸にかけて広範な腸管虚血・壊死を呈しており,壊死腸管の切除を行った.その後ショック状態から離脱できず,術後11日目に多臓器不全のため永眠された.病理組織学的検査で腸間膜動静脈内に血栓や塞栓を認めず,非閉塞性腸管虚血症(NOMI)と診断した.十二指腸まで虚血が及んだ広範囲NOMI症例の報告は本症例を含め4例あり,腸管壊死を伴うと予後不良であることが予想される.