2012 年 73 巻 12 号 p. 3207-3211
症例は60歳の閉経後女性で,57歳時にS状結腸癌に対してS状結腸切除術,膀胱部分切除術を施行した.組織型は高分化型腺癌で,粘液癌成分を伴うものであった.術後2年9カ月に下腹部に30cmに及ぶ多房性嚢胞状腫瘤が出現し,両側付属器切除を行った.巨大腫瘤は右卵巣であり,平滑な白色被膜と内部に充満する大量の褐色粘液で構成されていた.粘液結節の腹膜播種も認めた.病理組織学的には卵巣粘液性嚢胞腺癌と類似する組織像であったが,CK7/CK20染色にて既往のS状結腸癌と同様の染色性を示し,H.E. 染色を含めS状結腸癌の両側卵巣転移と診断した.形態的に正常であった左卵巣にも同様の病変を認めた.大腸原発の粘液癌はまれであり,さらにその卵巣転移は少数の報告を見るのみである.大腸癌卵巣転移は予後不良であるが,外科的切除による長期生存例の報告もあるので,積極的治療による予後延長が期待できる病態である.