2012 年 73 巻 5 号 p. 1190-1194
症例は36歳,女性.発熱・上腹部痛を主訴に当院受診.血液データでの白血球数,CRPの上昇とともに,腹部CT,超音波にて肝後区域に多発性の嚢胞性腫瘤を認め,肝膿瘍の診断で緊急入院となり経皮経肝膿瘍ドレナージ(PTAD:percutaneous transhepatic abscess drainage)を施行した.CTにて直腸壁肥厚を指摘されたため大腸内視鏡を行ったところ,直腸Rsに2型病変を認め高分化型腺癌の診断であった.肝膿瘍の穿刺液の細胞診はclass2であり,PTADおよび抗生剤投与にて膿瘍が軽快したことから,膿瘍内に肝転移は伴わないと判断した.膿瘍消退後,低位前方切除を施行し,tub1,A,ly2,v2,n2,stage IIIbの病理診断であった.その後,膿瘍の再燃や癌の再発は認めていない.肝膿瘍症例においては,たとえ40歳未満の若年者であっても,大腸癌が起因となる可能性を念頭においた全身検索が必要である.