2012 年 73 巻 6 号 p. 1530-1535
症例は74歳,女性.2009年10月,膵頭部癌に対して幽門輪温存膵頭十二指腸切除術を施行した.病理学的診断は浸潤性膵管癌,最大径17mmでT1N0M0 fStage Iであった.GEMによる補助化学療法後,経過観察されていたところ,2011年3月,腹部CT検査で膵尾部に腫瘤影を認め,精査の結果膵癌が疑われた.手術時,膵体尾部に1cm前後の2個の腫瘤を認め,膵を約3cm温存して残膵亜全摘を行った.膵を温存したことにより,血糖コントロールは比較的容易であった.病理診断では2個とも浸潤性膵管癌,T1N0M0 fStage Iと,T3N0M0 fStage IIIであった.初回を含めそれぞれの病変に連続性は認めず,多中心性発生と考えられた.背景膵にpancreatic intraepithelial neoplasia(以下PanIN)が認められ,浸潤性膵管癌の多中心性発生への関与が示唆された.