2012 年 73 巻 8 号 p. 2127-2132
症例は76歳,男性.出血性胃潰瘍にて内科で保存的治療中,左鼠径部腫脹と疼痛,歩行困難,高熱を認めたため外科依頼された.採血上炎症反応を認め,CT検査にて陰嚢内に腸管の存在と両側腸腰筋膿瘍を認め,腸腰筋膿瘍を併発した左鼠径ヘルニア嵌頓と診断した.腸管穿孔を危惧しガストログラフィン注腸を施行したところ,ヘルニア内容は回盲部を含む上行結腸であった.激しい疼痛のため用手還納は不可能であった.ヘルニア根治術と開腹腸腰筋膿瘍洗浄ドレナージ術の一期的手術を考慮したが,膿瘍の腹腔内散布による二次的腹腔内汚染を危惧し,二期的手術を選択した.鼠径ヘルニア根治術を先行して行い,Direct Kugel Patchを用いて後壁補強を行った.ヘルニア根治術後に腸腰筋膿瘍に対しCTガイド下穿刺・吸引術を施行し,穿刺直後より解熱した.その後の経過は順調で現在ヘルニアと腸腰筋膿瘍の再発は認めていない.