2012 年 73 巻 9 号 p. 2421-2425
症例は92歳,男性.以前より右鼠径ヘルニアを認めていたが,医療機関にはかからず,市販のヘルニアバンドを着用し,脱出時は自己還納を繰り返していた.右鼠径ヘルニアを自己還納した直後より激烈な腹痛が発現し,当院救急外来を受診した.腹部CT検査でfree airは認めなかったが,中等量の腹水と部分的に腸管壁の肥厚を認めたことから消化管穿孔が疑われ,緊急手術となった.開腹すると,消化液と食物残渣が腹腔内へ流出しており,小腸の腸間膜対側に穿孔部を認めた.穿孔部の腸管に絞扼による血流障害の痕跡が認められないこと,および自己還納直後から腹痛が突発した経緯から,自己還納操作に伴う外力によって腸管壁が瞬時に破綻・穿孔したことが推定された.今回の検討でヘルニアバンドを用いた保存的治療にはエビデンスが皆無であることが改めて確認された.鼠径ヘルニアは年齢を問わず手術を考慮すべきと考えられた.