虫垂憩室と虫垂杯細胞カルチノイドは各々まれな疾患であり,両者が併存した1症例を経験したため若干の文献的考察を加え報告する.症例は70歳の女性,右下腹部痛を主訴に当院を受診.虫垂穿孔による膿瘍形成の診断にて直ちに虫垂切除術とドレナージ術を施行した.病理組織検査にて虫垂の近位側に杯細胞カルチノイド,遠位側に多発する仮性憩室のうち1つで穿孔を認めたが両者は距離があり偶発であると判断した.切離断端は腫瘍が陰性であり追加切除や補助化学療法は行わずに経過している.杯細胞性カルチノイドはカルチノイド腫瘍の一亜型とされているが,悪性度が高く予後不良とされている.過去の報告例と自験例を合わせると105例で,治療法や予後に対する一定の見解は定まっていない現状で,切除標本も全割切片でないと発見されないため潜在性の症例も多いと思われる.診断には入念な組織検索が必要であり,追跡予後調査も重要であると考える.