2013 年 74 巻 7 号 p. 1886-1890
症例は81歳,男性.既往に認知症・高血圧・脳梗塞後遺症・閉塞性動脈硬化症による左大腿切断術がある.2012年8月血便・嘔吐を主訴に当科受診した.腹部圧迫にて全体的に苦痛様表情を認めたが,明らかな腹膜刺激症状は認めなかった.腹部造影CTでは,広範な小腸腸管壁の気腫性変化,腹腔内遊離ガス,門脈ガスを認めた.腹腔内遊離ガス,門脈ガスを伴った腸管嚢腫様気腫症と診断した.腹部所見が軽微なこと,門脈ガスは少量であること,腸管気腫が小腸に限局していたことなどから,絶食・酸素投与・抗菌薬による保存的治療を行った.臨床症状,血液検査データは数日で軽快した.加療後14日目の造影CTでは腸管気腫・腹腔内遊離ガス・門脈ガスともに消失した.門脈ガス,腹腔内遊離ガスを伴った腸管嚢腫様気腫症では消化管壊死・穿孔の疑いから緊急手術も考慮されるが,小腸腸管嚢腫様気腫症の場合,その適応は慎重な判断を要することが示唆された.