2013 年 74 巻 8 号 p. 2134-2138
特発性食道破裂は,食道内圧の急激な上昇により食道壁全層が破裂する疾患であり,縦隔炎や膿胸をきたし診断治療が遅れると致命的となる.今回われわれは,食道裂孔ヘルニアに合併した特発性食道破裂の1例を経験したので報告する.症例は67歳,女性.食後の血性嘔吐の後,胸背部痛が出現し当院へ搬送された.造影CTで混合型食道裂孔ヘルニアとともに食道穿孔を疑う所見を認めた.特発性食道破裂の多くは胸部下部食道から縦隔・胸腔内に穿破し開胸手術を要する.しかし本症例は,縦隔・胸腔内に穿破せず,ヘルニア嚢内で腹腔内方向に限局して穿破していた.食道裂孔ヘルニアによる食道裂孔の開大のため,経腹的アプローチでも縦隔内の視野が良好であり,開腹手術で治療しえた.食道裂孔ヘルニアなど解剖学的変化が存在する特発性食道破裂症例では穿孔部位・形式が通常と異なる可能性があり,アプローチ法も含めた適切な術式の選択が重要である.