2014 年 75 巻 9 号 p. 2591-2596
症例は61歳,男性.腹痛と便秘を主訴に受診し,腸閉塞の診断で入院.職業歴でアスベスト曝露歴,既往歴で虫垂炎手術.その後2度,腸閉塞とイレウス解除術.腹部造影CTでは直腸,S状結腸,小腸の集簇,腸管の通過障害と血流障害が疑われた.腹痛と腹部膨満の増悪を認め,術後癒着性イレウス再発の診断で手術の方針となった.腹腔内は強固に癒着し,特に回盲部近くの小腸同士が強固に癒着しており,膀胱直腸窩は癒着で閉鎖していた.小腸部分切除と回盲部切除を行い,人工肛門造設を追加した.病理組織診断で上皮型悪性腹膜中皮腫と診断されたが,誤嚥性肺炎などの合併症により全身状態が改善せず,化学療法の導入を行えぬまま,入院第121日目に死亡退院された.悪性腹膜中皮腫は稀な疾患であり,確立した治療法は存在しないが,腸閉塞を契機として診断された症例の予後は著しく不良である.早期診断,治療法の更なる検討が必要であると考えられる.