2014 年 75 巻 9 号 p. 2613-2616
症例は38歳の女性.新生児腹壁破裂の既往があり,妊娠30週頃より上腹部正中の膨隆を自覚し当科へ紹介された.腹壁瘢痕ヘルニアと診断したが,症状を認めないため経過観察の方針とした.出産後,膨隆の増悪と圧痛のため当科を受診した.腹部造影CT検査にて正中創上端の皮下に,約2cm大の脂肪織の嵌頓とわずかな膿瘍形成を認めた.大網の嵌頓による膿瘍形成と考え,外来にて切開排膿・抗菌剤投与を行った.炎症が消退した時点で全身麻酔下に腹壁瘢痕ヘルニア根治術を施行した.手術所見にてヘルニア門に索状物の脱出を認め,炎症を伴った虫垂であることが判明した.以上より腸回転異常に伴う虫垂が,上腹部正中創のヘルニア門に嵌頓し随伴性炎症を合併したものと診断した.上腹部正中創腹壁瘢痕ヘルニアへの虫垂嵌頓症例は稀であり,本症例のように腸回転異常症を伴う場合には,脱出臓器の検索を含め慎重な術前評価が必要と思われた.