2015 年 76 巻 4 号 p. 906-910
症例は72歳の男性.1週間前からの下腹部痛・排便困難を主訴に近医を受診した.腹部単純CTで膀胱頭側に腫瘤を認め,精査・加療目的に当院紹介となった.血液検査でWBC・CRPの上昇を認め,腹部造影CTでは膀胱頂部の壁肥厚と正中腹壁直下の臍部まで連続する腫瘤を認めた.画像所見から尿膜管癌を疑ったが,腫瘤内部に魚骨を疑う線状影を認めたことと入院後から膿尿を認めたことから,まず抗菌薬による治療を開始した.血液・尿所見は改善傾向にあり,腹部CTを再検したところ腫瘤は縮小しており,内部にみられた線状影は尿道内に移動していた.膀胱鏡で前立腺に刺入した魚骨が確認され,魚骨を経尿道的に摘出した.その後も抗菌薬治療を継続し腫瘤は完全に消失したため,腫瘤は魚骨による膀胱周囲膿瘍であったと考えられた.尿膜管疾患との鑑別が問題であったが,稀な経過で保存的治療を完遂できた症例を経験したので,文献的考察を加えて報告する.