2015 年 76 巻 4 号 p. 926-930
症例は87歳,男性.左鼠径部膨隆を自覚し,近医で鼠径ヘルニアの診断にて一年間の経過観察となった.心窩部痛出現し精査加療目的に当院紹介となり,画像検査にて40cm・22cm・5cm大の腫瘍を計3カ所認め,脂肪肉腫を疑い腫瘍摘出術が施行された.腫瘍はそれぞれ小腸間膜・後腹膜・直腸間膜から発生しており,総重量5,701g,病理組織学的には,1カ所が脱分化型,2カ所が高分化型脂肪肉腫であった.鼠径部膨隆をきたした要因として,後腹膜由来の脂肪肉腫が内鼠径輪より脱出していた.腫瘍を内鼠径輪より腹腔側に引き出し切除後,内鼠径輪をParietex meshで閉鎖した.術後経過良好で退院となり,術後現在4カ月再発の兆候は認めていない.多中心性であること,また鼠径部膨隆を契機に発見された自験例は稀であり,診断の遅れはきたしたが,術前診断に至り一期的に根治手術可能であった1例を経験したため若干の文献的考察を加え報告する.