2016 年 77 巻 9 号 p. 2170-2174
症例は45歳,重症心身障害者女性.右乳癌に対しBt+Axを施行.術後診断はアポクリン癌,Stage IIB,ER(0%),PgR(0%),HER 2(3+).術後2年目に右腋窩~鎖骨上リンパ節転移が出現.3週毎トラスツズマブ療法を開始し,3カ月後の評価ではPRで以後効果を維持している.CLEOPATRA試験の結果を受けた我が国の乳癌診療ガイドラインでは,HER 2陽性再発乳癌に対し,ペルツズマブ・トラスツズマブ・ドセタキセルの3剤併用療法が推奨されているが,本症例では3剤併用に対する忍容性の評価が困難であったため,トラスツズマブ単剤療法からの開始とした.重症者乳癌診療においては診断から治療に至るまで,様々な制限や障壁が現実に存在する.このため,健常者向けの診療ガイドラインに沿っての方針決定は難しく,症例個々の背景を含めて熟慮したうえでの方針決定が必要である.