2020 年 81 巻 2 号 p. 399-403
症例は41歳,女性.自動車運転中に自損事故を起こし,胸腹部を打撲し当院へ救急搬送された.来院時,激しい腹痛の訴えがあり,腹部は板状硬を呈していた.外傷性腹膜炎が強く疑われたため緊急でCTを施行したが,腹腔内の臓器損傷を疑う所見は認めなかった.試験開腹術も考慮したが,病歴を詳しく聴取すると家族性地中海熱(familial Mediterranean fever:FMF)の既往があった.同疾患による腹痛と判断し,入院下で保存的に経過をみたところ,腹痛は速やかに軽快した.FMFは周期性の発熱・漿膜炎(胸・腹膜炎)を主徴とする疾患で,ストレスなどにより発作性に発症するとされる.今回,交通事故というストレスで発症したと考えられるFMF症例に対して,適確な診断をすることで試験開腹術を回避することができた.